文学賞コンテスト商法の内幕   [ブログ]

「審査員特別賞」という罠
 


   「さっき若い人が言ってたんですけど、私の作品、編集部内での評価が一番高かったそうじゃないですか」

 「そうです」

 「じゃあ、なぜ大賞にならなかったのですか」

 「選考委員による選考で、惜しくも受賞に至らなかったのです」牛河原は言いながら書類を目で追い、作品タイトルを確認した。「我々、編集部内では、板垣様の『パーフェクト・フリー』が取るだろうと思っていただけに意外な結果でした」

 「それって、何とかならないんですか」

 「難しいです。ですが、板垣さんの作品は審査員特別賞となっています」

 「大賞はどんな作品なんですか」

 「今、ここで申し上げるわけにはいきません。来月、弊社のホームページで発表されます」

 「その作品、私のよりもいい作品なんですか」

 「選考委員の先生方はそう見たようです」

 「あなたはどうなんですか」

 「ですから、先ほど申し上げたように、私どもが一番推したのは、板垣さんの『パーフェクト・フリー』です」

 「そうでしょう」と板垣は言った。「何とか大賞を受賞することはできないんですか?」

 牛河原は苦笑した。大賞に選ばれるのが当然と思っている。ごく稀にこういうのに当たるが、この手のタイプの客に金を払わせるのはなかなか大変なのだ。

  ( 中 略 )

   「板垣さん―」牛河原は低い声でゆっくりと言った。「賞に関してはすでに決定事項です」

 その強い口調は有無を言わせぬものがあった。板垣も一瞬黙った。

 「しかしながら、出版の道は残されています」

夢を売る男」 4 トラブル・バスター より (145~146ページ) 

牛河原が提案したのは、著者が出版費用の一部を負担する、いわゆる「共同出版」というものだ。本が数万部売れればその費用は楽に取り戻せると、牛河原は客を説得する。しかも、その本がきっかけとなってベストセラー作家となることも夢ではないと言う。
 

牛河原の説得は、客の自尊心をくすぐり、もしかしたらという期待を抱かせる。しかし、無名の著者の本が数万分も売れるはずがない。まさにそれは、宝くじに当たる確率よりも低い。
  
審査員特別賞は、選外となった著者に本を出版する道があるという口実のためのものだ。かつて、ある出版社は、年間30回以上も文学賞コンテストを開催していた。しかし、受賞者の大半は実在しなかった。
 
その出版社はホームページで受賞者の名前を公開していたが、それは架空のものだった。美味しい餌をちらつかせて客(著者)を捕まえるのは自費出版会社の常套手段である。迂闊にその口車に乗らないようにしたい。


私が「共同出版」を断った理由
http://www.kobeport.net/rental/nakano/1.html
    
 
         9784778313531-thumb-autox260-5801.jpg            にほんブログ村 経営ブログ マネジメントへにほんブログ村




この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。