売れなくても儲かる自費出版(共同出版)システム   [ブログ]

インチキ文芸賞に応募が集まる理由

   
 「小説はもうずっと毎年毎年売り上げを落としている。大手出版社の小説は大半が赤字だ。日本人はもう小説なんか読まない時代になっているんだ。にもかかわらず、小説賞の応募は年々増えている。うちみたいなインチキ文芸賞にも毎回週百もの応募原稿が集まるくらいだ。要するに、他人の作品は読みたいとは思わないが、自分の作品は読んでもらいたくて仕方がないんだよ」

 「読まれる価値があると思ってるんでしょうか」

 「少なくとも本人はそう思っている」

 「滑稽ですね」

 「それを言うならプロの作家の方が滑稽だ。一部の人気作家を除いて、大半の作家がほとんど読まれもしない小説をせっせと書いている。プロ野球の最下位争いしていいるチーム同士の雨の日の消化試合の観客以下の人数にしか読まれていないのに、だ」

 「プロの作家も僕らの客に似たようなレベルなんですね」

 「そうだな。それでもプロは一応は本を出すにあたっては出版社から金が支払われる。売れなかったら出版社が損をかぶる。ところがうちの客たちは自分で金を出す」
 
「売れなくてもうちは儲かるということですね」
 「そういうことだ」

     

 「でも、よく自分の本を出すのに百万とか二百万とか簡単に払いますよね」

 「あいつらはそれくらいの金は回収できると思っている。ベストセラーになれば、簡単にお釣りが来ると思っている」

 「どれくらい売れると思ってるんでしょうね」

 「小説だと、十万部くらいは楽にいけると思っている。うまくすれば百万部も夢じゃないと」

 「馬鹿じゃないですか」

 「まあな。しかしそういう馬鹿のお蔭で俺たちは食っている。昼飯に四千円の特上うな重なんか普通は食えないぞ」

   荒木は「ご馳走さまです」と牛河原に頭を下げた。

 「まあ、カモの気持ちなんか理解していなくてもどうってことはない。大事なことはカモを逃がさないことだ」
 

「夢を売る男」 1 太宰の再来 より (33~36ページ)   

本を出せば出版社はその本が売れるように営業してくれるものと著者は期待する。しかし、出版社にとっては、売れそうもない本を売る努力などするはずがない。そもそも、自費出版(共同出版)の会社は、売れなくても儲かるようになっている。むしろ、売れれば倉庫から出して発送しなければならず、余計な手間がかかる。
   
牛河原の勤める丸栄出版では、全国117店舗の書店と契約しており、そこに30日陳列するという。これは、著者に対して営業努力していることを示すものであるのだが、売れなかった場合、出版元の丸栄出版が買い取ることになっている。書店にとっては極めて都合のいい取引と言えるが、売れなかった本の買取り費用は、著者が支払った出版費用に含まれている。 139ページ
  
本を出したいという顧客がいるために自費出版(共同出版)の会社の経営は成り立つ。しかし、一人でも多くの人に読んでもらいたいという著者の思いとは反対に、出版社は、そういう顧客を「カモ」としてしか見ていない。まったく顧客を馬鹿にしている。著者は怒るべきだ。

  

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