いい文章とは何か・・・ [ブログ]
編集者の文学談義
「ところで、部長」と荒木が言った。「前から疑問に思っていたのですが、いい文章ってなんですか?」
「読みやすくてわかりやすい文章だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「でも、それっていわゆる文学的な文章というのとは少し違いますよね」
「書評家や文学かぶれの編集者が言う文学的な文章とは、実は比喩のことなんだ」
「たとえば単に『嫌な気分』と書くのではなく、『肛門から出てきた回虫が股ぐらを通って金玉の裏を這いまわっているような気分』などと書くのが文学的な文章というわけだ」
「何となくわかるような気がします。うちの応募原稿にもたまにそんなこねくり回した文章があります」
「日本の文学界には、主人公の心情を事物や現象や色彩に喩えて書くのが文学的と思っている先生たちが多いからな。だから比喩をほとんど使わない作家や作品は評価されない。リーダビリティが高いと逆に低級とされる」
「夢を売る男」 6 ライバル出現 より (209~210ページ)
村上春樹氏の文章は平易で親しみやすいにもかかわらず難解だという批判もある。私もその作品には理解できないところが多い。それはまさに、その比喩表現がしっくりこないからだ。どうして、もったいぶった表現をしなければいけないのかと思わずにはおれない。
ちなみに、百田尚樹氏のこの「夢を売る男」には、もったいぶった文学的な表現は一切ない。主人公の牛河原が百田氏の代弁をしていると言える。