売れない本を売れるように見せかける秘訣   [ブログ]

50年に一度の天才の出現


  
「この作品、『墜落』だが―」
   牛河原はゆっくりと口を開いた。そして少し間を置いて続けた。

「あらためて読み直して、すごい作品だと確信を持ったよ」
  
大森の表情がぱっと明るくなった。

  「現代にもし太宰が生きていたら、こんな作品を書いたと思う」

「―そうですか」

初めて大森が言葉を発した。その声はかすかに震えていた。

「自分の作品を理解してくれる人に―初めて出会いました」

  牛河原は大きく首を縦に振った。

「普通の人には、この作品が理解できないだろう。しかし、それはある意味、仕方がないことだと思う。なぜなら、あまりにも斬新だからだ」

  大森はこくんと頷いた。 
      (

「それで」と牛河原は言った。「気持ちは固まったの」

「ええ、決心がつきました。牛河原さんにお世話になりたいと思います。ありがとうございます」

「礼を言うのはこっちだ」

「牛河原さんがいなければ、この作品は日の目を見ませんでした」

「そんなことはない。俺がいなくても、この作品は誰かの目に留まったはずだ」

「でも、それはいつになったのかはわかりません」

「敢えてもう一度言うが、本当にうちでいいんだね。これは本当に優れた作品だ。大手の文芸出版社が出しても不思議ではない」

 大森の顔に一瞬迷ったような表情が浮かんだ。しかしすぐに彼自身がその迷いを打ち消すように言った。

「大手出版社なんかに未練はありません。僕の作品を認めてくれなかった出版社には失望はあっても期待はありません。むしろ、見返してやりたい気持ちです」

「よく言ってくれた」

 牛河原は立ち上がって右手を差し出した。そして大森が出した右手を力強くんだ。

「『墜落』はうちの会社を代表する記念碑的な作品になると信じてる」

「ありがとうございます!」

「じゃあ、契約ということで、いいね」

「はい」

「夢を売る男」 1 太宰の再来 より (8~11ページ)          

   
牛河原は、来社した客に会いに行くための応接室に向かう。その途中で同僚の荒木に、「39歳の天才作家」に会いに行くことを告げる。「太宰の再来」だとか、「50年に一度の天才出現」だとか言う。「あとでその天才の話、聞かせてください」と荒木は言う。

 

どんな天才かと思いながら読み進むと、何と!! 「天才」は、出版社にとって「カモ」という意味であった。見事に百田尚樹氏に騙された。脱帽だ。

 

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