小説家の世界 2   [ブログ]

売れない作家の苦しい生活の実態



 「牛河原さんって言ったね。あんた、小説がわかってるね」

 「綿貫先生の小説は全部読んでいます。丸栄文庫で綿貫先生の若い時の魅力をより多くの読者の知らせたいと思っています」

 「まあ、復刊するならするでいいけどね。今の若い人たちに俺の本がわかるかなあ」

 「わかりますよ」

 「どうだかな」綿貫は小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。 「俺はもう大衆には失望してるんだ。結局、小説を読みこなせる本物の読者なんていうのは、日本には数百人くらいしかいないんだよ。くだらないエンタメは読めても、芸術作品は読めない。だからもう文学なんて書く気が起らないのさ。もちろんエンタメなんて死んでも書く気はない」

 「綿貫先生、どうか読者に失望しないでください。また是非新作を書いてください」

 「まあ、もう一度読者に対して期待を抱くことができたら、書いてもいいけどね」 


 ホテルを出てタクシーに乗った途端、荒木が「見た目が貧相な作家でしたね」と言った。

 「ああ、生活に疲れている感じだったな」牛河原が言った。「昔は現役イケメン大学院生として注目されたが、今はただの中年男だからな」

 「でも、読者に失望して書かないなんて、一つの美学ですね」
 「美学なもんか。まったく売れないから、どこの出版社も出してくれないだけだ」

 「なんだ、そういうことですか」と荒木ががっかりしたように言った。「じゃあ、あの人、何で食ってるんですか?」

 「知りたいか?」

 牛河原はにやりと笑った。「匿名のエロ小説で食っているんだ」

 「本当ですか?」

 「売れない純文学の作家には、そういうのは珍しくない。でもな、官能小説を書くことは決して恥ずかしいことじゃない。宇能鴻一郎や団鬼六は立派な作家だ。情けないのは、正体を隠して書くという行為だ。純文学作家である自分がエロ小説を書いているのを知られるのは誇りが許さないんだろうが、匿名で書いている時点で、誇りなんてとっくに失っているということに気づいていないんだ」

 「僕は作家にならなくてよかったですよ」

 荒木の言葉に牛河原はおかしそうに笑った。

「夢を売る男」 5 小説家の世界 より (207~209ページ) 

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小説家というしごと ~あるミステリー作家の実態~ その1

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