ゴミみたいな原稿が二百万円!! [ブログ]
百田尚樹・著 「夢を売る男」
牛河原が編集部の自分の席に戻ると、細い通路を挟んで向かいの席に座っていた荒木計介が「お疲れ様です」と声をかけた。
「太宰の再来はどうでした?」
牛河原は一時間前にエレベーターの前で荒木にその話をしたことを思い出した。
「なかなかのものだった」
「五十年に一度の天才作家の原稿を見せてもらっていいですか」
牛河原は机の上に置いてある封筒を手に取った。
荒木は机から立ち上がって、牛河原からそれを受け取った。そして立ったまま中から原稿を取り出すと、何枚かのページに目を通した。そして感心したように言った。
「これはすごいです!」
「だろう」
「まさしく天才的ですね」
荒木は笑いながら原稿を封筒に入れようとしたが、うっかり手を滑らせて、何枚かを床に落としてしまった。
「おい、気をつけろよ。この原稿は二百万円するんだぞ」
「すいません」
荒木は原稿を拾い上げて丁寧に机の上に置いた。
「でも、こんなゴミみたいな原稿が二百万円になるんですから、ぼろい商売ですよね」
「まあな。でも楽に稼いでいるわけじゃない。それなりに苦労はしてるんだ。今度出す絵本の見本も見るか?」
「あの有閑マダムの下手くそな絵本ですか」
「そう言うな。うちにとってリピーターは大事な客だ。さっき会った詩人の詩を見せてやろうか」
「いいです。どうせ、中学生レベルの絵と文章でしょう」
「いや、違うな」
荒木は、ほうという顔をした。
「小学生レベルだよ」
「夢を売る男」 1 太宰の再来 より (17~19ページ)
ゴミみたいな原稿が200万円になるとなると、出版社としてはまさに「お客さまは神様」だ。笑わせてくれる。
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「夢を売る男」 [出版]
出版界を舞台にした掟破りのブラック・コメディ!
書籍の説明
『永遠の0(ゼロ)』の百田尚樹、大暴走!!
最新書き下ろしは、出版界を舞台にした掟破りのブラック・コメディ!
◆あらすじ◆
敏腕編集者・牛河原勘治の働く丸栄社には、本の出版を夢見る人間が集まってくる。
自らの輝かしい人生の記録を残したい団塊世代の男、スティーブ・ジョブズのような大物になりたいフリーター、ベストセラー作家になってママ友たちを見返してやりたい主婦……。
牛河原が彼らに持ちかけるジョイント・プレス方式とは――。
現代人のふくれあがった自意識といびつな欲望を鋭く切り取った問題作。
「狼煙社の存在が大きいと言わざるを得ません」
プロフィール
1956年、大阪生まれ。同志社大学中退。放送作家として「探偵! ナイトスクープ」など多数の番組構成を手がける。
2006年、『永遠の0(ゼロ)』(太田出版)で作家デビュー。同作は文庫化され、150万部を超えるベストセラーとなる。
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