詐欺出版商法の被害者の逆襲 [ブログ]
藤巻はマスコミの影響力のすごさをあらためて思い知らされた。古い友人や音信のなかった元同僚から「テレビを見た」とか「記事を見た」という連絡が頻繁にあった。一般の見知らぬ人からどうして電話番号を調べたのか、「本を読みたいのですが、どこに行けば手に入りますか」という問い合わせもたまにあった。電車に乗っていると、乗客から「テレビに出ておられましたね」と声をかけられることもあった。
藤巻は自分が有名人の仲間入りをしたのがわかった。脚光を浴びるということがこれほど素晴らしいものだったとは。七十年の人生でその快感を初めて知った。
裁判の行方に関してはまったく心配していなかった。狼煙社の詐欺商法の証拠は次々に出てきたし、弁護士は「裁判はまず勝てる」と言っていた。おそらく完全勝訴で終わるだろう。それは自分の人生を飾る輝かしい勝利になる。
藤巻は狼煙社との闘いの顛末を本にするつもりだった。それはまさしく息詰まるドキュメントになる。詐欺まがいの商法に騙されて一時は失意に沈んだ男が、不屈の精神で立ち上がり、敢然と巨大出版社に挑む戦いの軌跡を綴ったノンフィクションだ。
一連の報道で、藤巻正照の名前と狼煙社をめぐる戦いは世間に大いに知られた。多くの人が注目するこの事件を当事者である本人が書き下ろした本が話題にならないはずはない。他社に版権を移した『我が戦いに悔いなし!』とともに、二冊の本は空前のベストセラーになるだろう。
藤巻は喜びのあまり、自分の血圧が上がってくるのを感じ、ポケットから慌てて薬を取り出して飲んだ。
「夢を売る男」 9 脚光 より (271~273ページ)
この小説は、モデルが存在する。狼煙社は、2008年に倒産した新風舎であることは明白だ。実際、小説の中でも裁判は原告(4人)と和解して終わるものの、マスコミで大きく取り上げられたことで大きく顧客を失い倒産する。
しかし、藤巻正照のその後のことは触れていない。藤巻が予測していたとおりになったのか、それとも「捕らぬ狸の皮算用」に終わったのかはわからない。