矯正運営の基盤~職場環境の改善と人材育成
矯正施設では、ここ数年、毎年千人もの新人職員を採用している。その多くは定年退職者の補充だが、中には採用後数か月を経ずして退職するいわゆる短期離職の職員の補充も含まれている。 かつて終身雇用が当然と考えられていた時代にも、職場に適応できなかったり、より勤務条件の良い職場を求めて転職する例はあったが、非正規雇用が増加して雇用条件が不安定になっている中で、採用後短期間で矯正の職場を去る職員が少なからずいるのはなぜか。 職員の定着を阻害している要因としてよく挙げられるのが、矯正施設における勤務条件の厳しさである。例えば、刑事施設では、一般に長時間の拘束を常態的な超過勤務のほか、勤務中は非常事態の発生に備えて、原則として施設の中から外に出ることは認められないことや、刑事施設の夜勤者では、一日の歩行距離が数十キロに及ぶこともある。 また、一人の職員が負担する被収容者数は、平成15年当時英仏独の三か国が1.6人から2.0人、超過剰収容の米国でも3.1人なのに対して、日本は4.0人で、その後改善されたとはいえ直近の数値でも3.3人とはるかに多い。 このような職場環境を改善するためには、予算、人事面での対策に加えて、快適な働きやすい職場環境を確保するための総合的な対策が必要であり、こうした観点からも、現在進められている女子刑事施設の運営改善の進捗には、男子施設を含めて矯正全体から大きな期待が掛かっている。 もう一つの柱が、長期的な視点に立った人材育成である。処遇困難な受刑者や非行少年と日々対応している矯正職員は、職務遂行上、常にリスクを抱えていることもあり、いわゆる不祥事等の職員事故の発生が一般の行政職の公務員と比較して多い傾向にある。職務を遂行する上で恒常的に内在しているリスクに対し、不祥事を防止するためには、人材育成の観点から職員研修を充実する必要がある。 人材育成は本来、組織にとって永続的に取り組むべき運営の基盤となる課題である。人材の成長は組織を支え、組織の成長は人材の育成機会を拡大する。漫然と年を重ねるだけで、自動的に知識や経験が付与されるわけではなく、プロの矯正職員として成熟するとは限らない。う遠な話のようだが、不祥事を減らす最良の方策は人材育成に尽きるのではないだろうか。 (名古屋矯正管区長 亀田光生) | | 「刑政」 2014年5月号 巻頭言 より (抜粋、一部改行) |
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2014-05-19 23:55
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