元刑務官の参考意見
私は、法務省矯正局の管轄下の某刑務所に〇〇年勤務しました。しかし、思うことがあって定年まで数年残して退職しました。
刑務官の職務は厳格さと公正さが求められます。それだけにその職務執行の厳しさから「他に仕事があれば辞めたい」という声も決して少なくありません。しかし、現実から逃げ出すことなく職務の使命感に燃えて日々、その厳しい職務執行に多くの刑務官は邁進しているはずです。
私はそういう大きな問題を抱えている現実に日々立ち向かっている現職の刑務官の方々に本当に頭が下がります。私は事情があってその職務執行を人生の半ばで投げ出してしまいました。
罪を犯し刑が確定した者が刑務所に入って来る訳ですが、刑務官拝命当時はそういう者に対して真正面から立ち向かって行く使命感を私は持っていました。
しかし、あるときからその自信がなくなって行くのを感じるようになりました。それは、刑務官としての経験の中でその使命感とは相容れない矛盾する現実に気付いたからです。職務執行の過程でこんなことでいいのかという現実に遭遇すると同時に、そういう現実に対する無力感があったからでした。
罪を犯した者の更正に尽力したいという思いが私には常にありましたが、現実の困難な矯正の現場を経験すればするほど刑務官として何ができるかということに疑問を抱くようになりました。
そこで私は、その能力ゆえに大きな問題を自らが引き起こさないうちにと思って矯正の現場から身を引きました。
「身を引いた」というと潔いというイメージがありますが、本当のところは困難な矯正の現場から「逃げ出した」と言うべきかもしれません。「他に仕事があれば辞めたい」という職員がいる中で私が辞めることができたのは、辞めた後の生活の見通しがあったからでした。辞めた後でやりたいことがあったからでした。
(続く)
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