初版(300部)は数か月で売れ切れた。そこで、増刷(第二刷)について出版社と協議した。その結果、1,000部の増刷が実現した。費用は全額出版社が負担することになったが、一定部数が売れなかった場合、著者がそれを買い取るという条件が付いた。
しかし、契約期間終了後、この買取り部数を巡って出版社と解釈の相違が生じた。
(残部の買取り)
甲(著者)は、本件書籍の増刷部数1,000部のうち700部について、契約終了時点で残部があった場合、甲は残部すべてを定価1,000円の80%にて買い取ることとする。
出版社の解釈 ⇒ 増刷した1,000部について売れ残りがあった場合、700部を上限としてそのすべてを著者が定価の80%で買い取る。
すべて売れた場合の出版社の収益は、
1,000円×70%×1,000部=700,000円( ← 書店・取次のマージンが30%)
300部売れた場合の出版社の収益は、
1,000円×70%×300部=210,000円( ← 販売による収益)
1,000円×80%×700部=560,000円( ← 著者の買取りによる収益)
210,000円+560,000円=770,000円
出版社は、1,000部すべてが売れた場合よりも、300部しか売れなかった(700部が売れ残った)場合の方が大きな収益を手にする。
果たして、こういう出版契約は正当なものと言えるのか。売れない方が儲かるとは常識的な商習慣に反している。売るために努力してこそ儲けという報酬が生まれる。何もしない方が儲けがあることがどうして正当なのか。
売れない方が儲かるということになれば、出版社は売ろうと努力するはずがない。何もしない方が儲かる訳だから当然だ。その一方で、一人でも多くの人に本を読んで貰いたいと思う著者は、個人的に書店を回って本を置いて貰うように努力する。出版社が売れない方を望んでいることも知らずに。
まさに出版社の経営姿勢は、著者の思いを踏みにじっている。こういう出版社が良心的と言えるのか。言えるはずがない。